People In The Box/聖者たち

4thシングル

1.聖者たち ★★★★★
一年程前、深夜アニメをぼーっと横目で流しつつ、大人のサイトを巡回しながら揺れない偽乳とあざとい喘ぎ声ばかり発する女優にうんざりし、それでも下半身は正直になりながら言い知れぬ虚無感におそわれていた (もちろん賢者モードになる前の話である) ぼくに衝撃が走った。
その破壊的に歪み掻き鳴らされるギターのイントロ一つでして、ぼくの目と耳をXVIDE●Sからテレビ画面まで持って行き、その後すぐ様前へ出ててきて複雑怪奇なフレーズをブリブリ鬼のように弾き倒すベースラインが醸し出す異様ともいえる張り詰めた緊張感に耳は釘付けである。後ろで美しくも不穏な音色でアルペジオを奏でるギターも、曲にさらなる退廃的美、デカダンさを添える。まるで深夜の町を虚ろに徘徊しているかのようだ
そんな下手なグランジドゥームメタルなんて目じゃないくらい冷たく重く陰鬱な雰囲気から解放され、一転して賛美歌のように美しい様相を見せるサビ。もう今までの展開だけでも十分にこの曲に魅せられ虜となってしまっていたぼくに、そこではさらなる追い討ちが待っていた
「また空っぽな明日は 限りなく黒に近いグレイ 何かにもなれずに 限りなく黒に近いグレイ」
ボーカルが少年のような無垢で透明感のある声で、それでいて冷酷ともいっていいくらいの殆ど感情を表さない調子で虚無に苛まれているぼくの心境を全くそのままさらりと歌い上げたのだ!
その夜のぼくは村上春樹以上に文学的射精を経験したのではないだろうか
最初はdeadmanの再来かと思わせるその独特な雰囲気のダークさからヴィジュアル系かと思ったら残響系のバンドでびっくりぽん
音楽でここまで心にガツンときたのは久しぶりでした!

2.あなたのなかの忘れた海 ★★★★
前曲の暗い雰囲気を継承しながらも、張り詰めた空気が弛緩してメロウで温かみのあるバラードに
無機質だったボーカルにもぬくもりが宿り、「全ては作り物さ それでも生きていくのさ」と達観しながらも前向きに歌いつつ「海へ行こうよ」と招き続ける。それが何故か真夜中の海へ入水自殺しにでも誘ってるかのように聞こえてしまうところがみそ
ところでVo&Gtの波多野氏のルックスは髪型だけならサーファーなのに顔立ちは文学的、といった風つきである。この曲「あなたのなかの忘れた海」は、曲や歌声だけなら海のような偉大な優しさに満ちているのに、一部のサウンドと詩の節々からは憂愁と空虚の印象を受ける。このような点でこの曲は彼、波多野氏自身に似ているのかもしれない
それから引き続きグルーヴ感たっぷりで多端なプレイをするこのベースラインも、曲のほの暗さに一役かっているのではないでしょうか
ともあれ穏やかな波のように優しいギターのリフレインにより、心は洗われていきます

3.天国のアクシデント ★★★
ドラムのハイハットが延々とチキチキ繰り返してるおかげで、自分でも何を言ってるかわからないがベースがドラムよりドラムの役割をしてる摩訶不思議な曲
そのベースも無機質に同じフレーズを曲中ずっと刻み続けてて何だか異質な空間に迷い込んでしまったようです
加えてゆらゆらとしたエフェクトがかかった透明感あるボーカルの甘い歌声により、所謂シューゲイザー系バンドでいうところのトリップ感を味わえること間違いなし
サビになると今まで不明瞭にたゆたうようだったギターが緊迫感あるフレーズをいきなりくっきりとリフレインさせたり、曲と全く不調和なはずなのに妙に癖になるヘイッ!(棒)のコーラスが入ってきたり、.....とまあごちゃごちゃ書いたけどこ、これがぽすとろっくってやつたべか...

総評 ★★★★★
どの曲も現時点でアルバムには未収録なのですが、3曲だけでもフルアルバム1枚に匹敵する密度
このシングル1枚のせいで彼らの出したCDを全て買い揃え、2014年の後半から2015年はPeople in the box一色でした(おかげでDevelop one's facultiesのアルバムがヴィジュアル系熱を再燃させてくれるまではV系からはほとんど遠ざかってました)。
ドハマリするきっかけとなった「聖者たち」のような感じの曲は他の作品に見つけることができなかったのですが、もう波多野といえばAV女優の波多野結衣じゃなくてPeople in the box波多野裕文!ってくらいには信者っす